What a Wonderful World



プロローグ

 宇宙人や未来人や異世界人や超能力者およびそれに準ずる不思議な物事がこの世に存在しないのだということに遅ればせながらも気付き、いつかは宇宙人や (以下略)がフラリと俺の前に現れるんじゃないか…なんてそんなガキな夢を見なくなったのは果たしていつ頃だっただろうか。などとセルフQ&Aを したのも大分昔のことのように思われる。
 今年もまた夏に避暑と先祖供養を兼ねて田舎に赴いた際に、久しぶりに顔を合わせたイトコやらハトコやら甥やら姪やらと並んで縁側に寝ころびながら、子供 部屋に仕舞われて埃を被っていた、未来からやって来たネコ型ロボットの出てくる某国民的著名マンガを読んで童心に帰りつつ、ふと俺はこの半円形の白いポ ケットから様々な未来的アイテムを出してくれるネコ型ロボットの存在をいつまで信じていたのかが気になってしまった。
 クリスマスにしか仕事をしない赤い服を着たジジイの存在は最初から信じていなかった賢しい俺なのだが、このネコ型ロボットに関しては同年代の誰もが一笑 に付すような結構遅くの年齢まで信じていたように思う。
 机の引き出しを何度開閉してみても見慣れたフォルムのタイムマシンが現れることはなかったし、押し入れを奥まで目を凝らして覗いてみても何の機械片すら も見つけることは出来なかった。そうやって幾度も現実を突きつけられたことによって異世界へ行くことや四次元ポケットから出された秘密道具に夢見ていたこ とを自嘲しつつ、いつしか俺もこれは子供の夢を詰め込んだマンガなのだと大して熱中して読まなくなっていた。
 次第にこの世の普通さにも慣れていた俺が、涼宮ハルヒという世界の物理法則を素手でねじ曲げられそうな様々な意味で超越した奴との邂逅を果たし、宇宙人 や未来人や超能力者といった一度は存在を否定したような属性を持つ奴らとSOS団という結滞な集団に帰属し一つ釜の飯を食うような仲になった挙げ句、俺の なかで構築されていったなけなしの常識がコペルニクスによってひっくり返されたうえ粉微塵に踏んづけられたようなすったもんだのあった怒涛の高校生活も流 石に一年と半年を過ごせば慣れつつあり、何だかんだ言って充実した日々を過ごしていた高校二年の長閑な秋のことだった。
 おかしいとは思っていたんだ、あの衝撃的な自己紹介のときハルヒは『この中に宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいたら』…と言ったじゃないか。
 無口無表情なのは相変わらずだが液体ヘリウムのようだった瞳に近頃は春の雪解けのような色を垣間見せるヒューマノイドインターフェースな宇宙人、ドジっ こだが人一倍真剣に任務に取り組んでらっしゃる健気で愛らしいマイエンジェルな未来人、それと忌々しいことに胡散臭い笑みと本当の笑みが見分けられるくら いには短くない時間を共に過ごしたスマイル超能力者。ハルヒの挙げた三つの属性はクリアしている。
 そう。聡明な方々なら既にお気づきであろうが、ながいこと語り草となったハルヒの例の格言を、試しに紙に書き出してためつすがめつしてみても口に出して 唱えてみても、どう考えてもひとつ足りない。
 もしや、ある日唐突に地球に宇宙船ごと不時着して異世界人がやってくるんじゃなかろうかと要らん気を揉んでいた俺を笑ってやりたい。
 雲ひとつない秋晴れのある日、唐突に俺は――――異世界人になった。

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