僕は、窓際で本を読む。ソファは柔らかく、名前も知らないアーティストの曲が流れる。英語の苦手な僕には、歌詞もわからない。日は落ちかけて、薄く赤い明かりが紙面を照らして、活字が読みにくい。僕は少し目を細める。
ザクザクと、たまねぎを刻む音が聞こえる。彼女は、馬鹿でかい声で嘆きながら僕の家に侵入し、冷蔵庫を開けありったけのたまねぎを取り出し、勢いよく話を続けながら皮をむき、ザクリと切り始めるころには言葉も途切れ始めた。彼女はまたひとつたまねぎを手に取る。ざるいっぱいのたまねぎになんて目もくれない。その山ができる間に、小説の中の物語はずいぶんと進んでしまった。
たまねぎを刻む音と彼女のすすりなく声、意味のない英語の曲と五時を知らせるチャイム。
僕は静かに本を閉じて、立ち上がる。彼女が大きな音を立てて鼻をすすった。僕はキッチンへ向かい、彼女の隣に立ってまず換気扇のスイッチを入れた。
たまねぎの残骸を眺める。彼女が傷ついたとき、犠牲になるのはいつも大量のたまねぎたちで、だけど僕が刺されてしまうよりはずいぶんと安い犠牲だとおもってしまえばありがたい存在だと思う。
「煮込んで、溶かしちゃおうか」
「…つーくん、」
「もったいないでしょう」
彼女は僕を見て包丁を置いて、それから黙ってリビングへ歩いていく。柔らかなソファの隅で膝を抱えて座った。
まな板のすみに出来たまあるい水滴に気づかないふりをして、水で流した。シンクを埋め尽くす茶色いカラカラの皮に小さくため息が出た。
もったいないな。





(玉葱も、君の涙も)








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