それはとある日のことだった。
ウーゴス隊とステファノ隊の合同で近辺に潜伏し活動する山賊退治をすることとなった。辺境の村々は被害にあい、折角の蓄えをあらされて、歳若い娘も幾人か行方不明となっている。恐ろしくて外を歩けなく、ようやくのことでこのことが王都に伝わった。
元々ステファノ隊だけで任務を行うはずだったのだが、いわゆる大人の事情で王都務めのウーゴス隊も参加することとなったのだ。
ウーゴス隊は基本的に王の傍に仕える親衛隊のようなもので、見習いや若い者が多い。軟弱だと罵られたりもするが、ウーゴス隊長は今回だけだから耳に蓋をするなりして耐えてくれと苦笑しながら言った。
それもそのはず、ウーゴス隊が王派ならば、ステファノ隊は反王派つまり王弟派だ。馬が合うはずがない。
そんな二極の隊が上辺だけとはいえにっこり笑って手を取り合っている様子は、背筋が凍るほどのものだ。
一月程度かかるだろう。そんな状況下に二つの隊あわせても女の数はリオルー一人だ。この任務から抜けてもいいのだと言われたが、逃げたと思われる気がして、断固としてついていくことを決めた。ステファノ隊の副隊長はあの陰険ジュリオなのだから。
とはいえステファノ隊の面々のリオルーに対する態度は柔らかかった。ただ一人の女というのもあるだろうし、アズヴァルドに憧れる者に派閥などない。その上とんでもなく可愛らしい。誰一人としてリオルーの前で言わなかったが、半数以上の夢に現れたに違いない。
その村は酷く枯れていた。乾いた藁が丸まって小石の落ちる小道をかけるなんて風景をリオルーは見たことがなかった。家屋は破壊され、明らかな侵略行為を受けた痕がなまなましい。
村長は酷くやつれた様子で、ウーゴス隊長とステファノ隊長に状況を説明していた。
「私の住んでいたところも辺境だったけど、ここまでじゃなかったなぁ。水も豊富で緑に溢れていたもの」
「というか、盗賊退治していたんだろ? アズヴァルドと」
「あ、そっか。それで被害にあったことがなかったんだ」
ベルナルドに指摘されてようやく気がつく。母親肩を並べと夜通し戦い続けたあの日々は決して無駄ではなかったのだ。むしろこちらが鬼か悪魔のように強かったので盗賊たちは必死に逃げ回る、そんな状況が多かったが。
「酷いね。ここまでとは思わなかった」
「まー、オレもこんなのは始めてかも。戦争のせいで村や町が崩壊するなんてざらだったけど、それに便乗するような輩に好き勝手はさせられないな」
息でふっと前髪を吹き上げ、腰に手を当てながら辺りを見回す。
「山賊って、どのくらいいるのかな?」
「いても十数人ってところじゃないのか。大規模となるとどうかわからないけどなぁ。こっちも大人数だからなんとかなるだろ」
見やる村の入り口はテントを張る騎士の姿でごったがえしていた。おそらく五十名近くいるだろう。慌しく動き回る下っ端騎士に同情を感じる。が、リオルーが手伝おうとすると邪魔者扱いされるのでこうしてウーゴス隊長の帰りをひたすら待っている。
「おや、待っていてくれたのかい?」
村長の屋敷から出てきたウーゴス隊長は笑顔でリオルーの元へ歩いてくる。
「ではウーゴス殿、先に我が隊に説明を行ってくる」
「ああ。こちらもそうさせてもらうよ」
それなりに背の高いステファノ隊長はジュリオ副隊長と似た、背筋をぴんと伸ばした姿でテントへ向う。規律正しい隊なのだろう、とても騎士らしく見える。
「集合させますか?」
ベルナルドが訊ねると、ウーゴス隊長は頷いた。
「そうしてくれ」
集められたウーゴス隊の騎士たちは直立の姿勢で綺麗に並んだ。やればできると言うと普段はダラダラしているかのように思えるが、とりあえずは騎士だ、そして毎日の訓練は怠っていない。
ウーゴス隊長の隣に立っているのが副隊長、目立たないが腕はよい。リオルーを迎えに来た時は隊を半分に分けてきたらしく、あの副隊長が残り、王都でウーゴス隊長の帰りを待っていたのだ。が、その時に不注意で怪我をした。最近ようやく復帰したばかりだ。
「どうやら山賊は諸国で有名なルイジ団だ」
騎士がざわめく。リオルーでも知っている、ルイジ団と呼ばれる山賊がどんな集団なのか。
隣の国を中心に諸国を荒らす大規模集団で、親玉の姿を見た者はいない。大規模なのにアジトの場所は定期的に変わる。それもそのはず、いくつかのグループにわかれて行動をしているため、全体を掴むのは雲を掴もうとするようなものだ。
東で現れたかと思えば西でも、北でも南でもどこかしこでも現れて騎士らを翻弄する。一団を捕らえ掃討したと思ったら別の一団が現れたり、まさに頭痛の種で特にどうこうする手立てのない相手だ。
「わかっての通り、この地域から追い出さればいいのだ。ただこの近辺にアジトを構えているのは確かなのだ、そこを押さえ囚われた人々を助け出さなければならない。恐らくあの山に隠れているはずだから、明日はステファノ隊と分かれて捜索をすることになる。その上班に分かれて行動してもらうから、班内の連携はしっかりと取るように。アジトを見つけたならば単独で動かず仲間を呼ぶように。恐らく奴等も今現在の時点で気付いているだろうから、慎重に行動しろ。数がわからない、むやみな行動は死を招く。以上だ。身体を休め明日に備えるように」
「はっ!」
思ったよりも簡素にまとめられた内容だが、ウーゴス隊長の雰囲気が緊迫しているので誰もが腹の底から声をだした。
解散を始める仲間を見送りながらリオルーはウーゴス隊長のもとへ行く。
「隊長、お聞きしたいことがあるのです」
副隊長となにやら話していたウーゴス隊長は、いつもの笑顔で首をかしげる。
「山賊がルイジ団ということは、一筋縄ではいかないのではないですか?」
「リオルーはルイジ団を知っているのか?」
「その、故郷で母さんと暮らしていた頃、二度ルイジ団に襲われたことがあったんです。母さんは、近くに盗賊の類が現れた時にはすぐ気付くんですけど、一度目のルイジ団の襲撃の時には気付けなかったんです。最終的には追い出しはしたんですけど」
「二度目は?」
「以前見たことのある顔がいるって、母さんがすぐ気付いたんです。一度目に来た時に見た外の人がいて。その時は未然に防げました。母さんと私で逆にルイジ団を襲いました」
その言葉にウーゴス隊長と副隊長は目を丸くした。襲ったという表現が間違っていたのだろうか。取り繕おうと慌てると、笑い声を上げられた。
「なるほど、確かにアズヴァルドならば襲うが正しい表現だ」
「え、っと」
「アズヴァルドの武勇伝の数々にはね、それは誉められたものではない姑息なものも沢山あるんだよ。彼女の陰湿な手法に意見するものは少なくなかった。わたしも何度か意見したよ。だけど最終的には「これが最も被害がすくなく短時間で済む方法だ」という一点張りだ。誰も勝てなかった。本当にアズヴァルドの言うとおりだったけれども、アズヴァルドと戦ったことのある他国の者ならばまるで死神か悪魔のように呼んでいるらしいからね」
姑息といえば聞いたことがある。
正攻法ばかりでやれることなんて一つもないと、母親は常日頃言っていた。盗賊に襲われる前にこちらから手を出すのもその一つで、先に手を出させないのが信条とも。
恐らく母親の過去が関係しているはずだ。リオルーは盗賊らの好きにさせるのは嫌だったので先手を打つのは賛成だったが、町で暮らしている人々相手までそんな風にするのは違うと思っていた。生まれた時代が違う、母親は笑ってそう言った。
母親は決して自分が不利になるようなことはしなかった。だけれども一緒に暮らす町の人々を常に思っていた。それ以上に己の身を案じて。
アズヴァルドとしての自分を隠すためだったのかもしれない。リオルーの知らない陰の部分が関係しているかもしれない。それを含めて愛した人との結晶を心の底から大切に思っていたはずだ。そうでなければ、リオルーにアズヴァルドという存在を叩き込むはずがない。
リオルーも知らず先手を取る疾風の剣術使いで、相手の急所をつくために近くにあるものをなんでも使う。砂地ならば目晦ましは当然、物ならばどんなものでも武器にする。初めてウーゴス隊長と手合わせをした時には大層驚かれた。見た目だけではなく受ける剣戟の重さまでもアズヴァルドそっくりだと。ただリオルーはアズヴァルドと違って経験が足りなくその時はさすがに隊長に負けてしまったが、経験をつめばリオルーに敵はないだろう。ウーゴス隊長は複雑そうに言った。
「今でも思い出す、本当に恐ろしい奴だった。必ずしも正義の使者とは言いがたい、そんな雰囲気なんだ。戦場に立つと男とか女とかじゃなくて、ただ一人の人間として怖かった。まさに魔神だなって」
「魔神、ですか。ウーゴス隊長は母さんと過ごした時間が長いからそう思うんですね」
「アズヴァルドが一躍英雄として祭り上げられた逸話を知っているかい?」
「確か負け戦と呼ばれた戦いで敵国の将の首を持ち帰った話ですよね」
ウーゴス隊長は深く頷く。
「そう。その時アズヴァルドは突撃隊の隊長だった。問答を続ける陛下と配下たちからの言葉を待たず自分の駒だけを率いて戦場に出て行った。たったの三十余人で二百程度の大群を壊滅させたんだ。恐らく将だけを狙う作戦だっただろうが、将の首を吊り下げて帰還したアズヴァルドの姿といったら、死神がついにこの国にやってきたかと思った。わたしはその時アズヴァルドが本当に敵でなくてよかったと心底思ったよ。彼女は、この世に現れた戦神だったんだ」
「私は、その時子供でしたが大人達が騒ぐのでひたすら興奮していました。英雄の帰還だって」
「副隊長の世代ならばそうだろうな。アズヴァルドの手腕に心酔していた者もそうだ。わたしは友だったからこそ、そう思ったのかもしれない」
そう言いながら目を伏せるウーゴス隊長の懐かしむような眼差しはリオルーに向けられていた。
「きっと、私はアズヴァルドにはなれません。私は母さんと違いますから」
「だろうね。見ていてわかるよ。姿も動きもよく似ているけれど、リオルーは優しいからね。アズヴァルドの伝説のひとつ、男は糞以下だっていうのも、あれは結構酷かったなぁ」
「母さんらしいです。上手くこき使っていたんでしょうね。故郷でもそうでした」
「なるほど、相変わらずだったんだな」
おかしくなって肩を震わせる。
重い話をしたあとだからこそ余計なのかもしれないが、リオルーの中で母親と言う存在がまた不思議と歪み始めていた。
自らの命よりも子供の未来を取ったあの時でさえアズヴァルドらしいと思うのに、残酷なまでに血生臭いアズヴァルドの存在も揺らぎながら重なる。形が不確かになって、リオルーが思うよりも母親は謎を多く含んでいるようだ。
「で、一筋縄でいかない話だったよね」
「はい」
「確かにそうだろう。私もルイジ団には二度遭っている。一度はルイジ団の中でも下っ端だったけれど、二度目は酷かった。多くの仲間を失ったよ。同じ過ちを繰り返さないようにしたいけれど、どうなるかわからない。気を抜くなとしかいえないんだ」
「そう、ですか」
「わたし達で勝てない相手ではない。傭兵の中でも名高い連中を抱え込んでいるとかそういうわけじゃないし、正規の訓練を受けたものはほとんどいない。こちらの集団行動を駆使すれば簡単さ。リオルー、気をつけるんだよ」
「はい、わかりました」
連れてきた馬では山中の探索の邪魔になるので、半数の馬を世話する待機組が手を振る。騎士として馬に乗るのが常とはいえ、馬のせいで先へ進めないのは困る話だ。
リオルーが属するベルナルドの班は徒歩で探索に参加することにした。五人であたりに気を配りながら麓に近い森林地帯を歩いていく。
国境近くにあるこの山は人の手が加えられず、多くの動植物が生息している。少し肌寒い風が通り過ぎる。落ち葉は湿っているためにパリパリとした音はならない。
空には雲がかかり先行きが不安だった。夕方ごろには雨が降るのではないだろうか。
「ベルナルドさん、ここに足跡と車輪の跡があります」
「班長、こっちもですよー」
足元の葉を散らしながら先を行く仲間を追う。
「見た感じどうだ?」
蹲り跡を確認する最年長のリカルドが首をかしげた。
「日は浅くないと思うんだけどな。雨が降ったあとだからイマイチわからない。でもこの辺りを通ってるのは間違いないだろう」
「とりあえず他の班と合流でもするか?」
言いながらベルナルドは顔をあげた。そして小さく息を吐く。
「その必要はないみたいだな」
リオルーも見やる方向に人影を見つけた。しかし同じウーゴス隊ではなくステファノ隊の連中だ。ぶつかり合うつもりは毛頭ないが、そうもいかないかもしれない。
ベルナルド班に気付いたのは恐らく班長を代理しているジュリオ副隊長だ。相変わらずの冷ややかな視線を一度リオルーに向けると、サッと反らした。
「これはジュリオ副隊長、丁度よいところに」
かしこまるベルナルドに目を向けて、口元を歪めた。
「そのようだな」
「行動を御一緒させてもらって構わないでしょうか」
「ああ」
それだけ残してジュリオ副隊長を含む六人の一行は車輪の跡を追って行く。リオルーらは顔を見合わせ、互いに頷きあった。
どれくらい歩いただろう。途中の洞穴から顔をだす狐の親子の姿を見たのは随分前のように思える。他の騎士に出会わなかったことが嘘のように山の中腹まで上りつめて、小休憩を取る二つの班は互いに口を利くことはなかった。
かといって沈黙と言うわけではない。それぞれの班員同士での会話は通常通り行われていたし、多少一方通行ではあるが班長同士(この場合ベルナルドとジュリオ副隊長)の会話もあった。
リオルーは少し不安だった。生き物の気配がないこともそうだが、この静けさ。いつだったか盗賊退治に母親と出かけて、危うく命を落としかけたそんな時に似ている気がする。小さな滝のようになった水辺に腰を下ろし、耳を立てるが他に不審な音はしない。
気のせいならばいいのだ、ただ経験が物を言う。戦争を体験している騎士も仲間にいるのだが、正面切ってぶつかり合うようなそれとは違う状況だから、気は抜けない。結局全身で今を把握するしかなくて、両手ですくった水をそのまま顔にぶちまけた。予想以上に冷たい。
「リオルー」
横にベルナルドが腰を下ろす。
「どうしました? もう出発ですか」
「いや、もう少し休憩だ。夕暮れまでまだまだ時間がありそうだし、天気もなんとか崩れていない」
「でも、確実に降りますよ」
「降る前には山を下りる予定だよ。ジュリオ副隊長も飾りでそんな名前を貰っているわけじゃないんだ。それよりもさ」
それでなくても顔がいい男なのだ。真顔でかつ間近にあると心臓が激しく鳴った。
「あの副隊長のリオルーを見る目、気に入らないよなぁ」
「は?」
「わかっていたけど敵が多い」
「えっと、な、何の話ですか?」
わからないかな? なんて眉を寄せられて、リオルーは話のネタになっているジュリオ副隊長を盗み見る。
意識しているわけでもないのに目が合い、互いに何を思ったかついと反らした。
「あ、あの人は母さんに憧れている人だから……見た目が似ているから母さんのことでも考えているんじゃないですか?」
「え? 副隊長ってアズヴァルドのファンだったんだ。ヘェー、それは意外。だけどそんな目じゃないぜ? どう見てもリオルーの後ろを見るような目じゃないよ」
「ま、まさかっ」
鈍感だと自覚しているが、何を意図しているのかさすがにわかってしまう。
「絶対リオルーのこと気にしてるよなぁ。一番の敵はメルキオル隊長だと思っていたのに」
「べ、ベルナルドさんもそういうこと本人の目の前で言わないでくださいよ!」
思わず声を荒げ立ち上がると、共に行動していた男たちの視線を一斉に受けた。直後ジュリオ副隊長が立ち上がる。
「うしろ!」
その視線はリオルーからその上へ向けられていた。
反射的に黒い柄を握り振り返りざまに引き抜く。冷たい金属音が鳴り響きバランスを失いかけたリオルーはベルナルドに腰を引かれ彼の上に倒れこんだ。
数は十近くだ。急いで転がり彼の上から退き、二人とも素早い身のこなしで起き上がる。
「ちっ、山賊どもめ」
剣を抜くベルナルドは前髪を息で吹き上げ特徴的な構えをする。利き腕を目一杯引き間合いを計るようにすり足をする。
少し離れて休憩していた騎士もそれぞれ剣を抜き、二人のもとへ駆けつける。数は互角だ、だが地の利は山賊にある。
ふいにリオルーが一際小柄で女だと見抜かれ一斉に彼女に襲い掛かる。咄嗟に応戦するが数が多くて簡単に囲まれてしまう。ベルナルドが共に戦っているとはいえ他の仲間の応援を許さないかのように山賊の数がまた増えた。一気に仲間との距離が広がっていく。
後ろは崖だ。引くことを許されず攻め入るしかないので押しに任せた戦法を取るものの実力を生かしきれない。襲い掛かる刃を避けるのが精一杯でようやく倒した山賊はたったの二人だ。
「リオルーうしろ!」
少し離れたベルナルドの声が響き、鞘を左手で握り締めながら振り返るとまた山賊が現れた。一気に数は倍に膨れ上がり、これでは串刺ししか先がない。いや、そんなことはさせない。
アズヴァルドと過ごした日々は無駄ではない。少数で多数を打ち負かす方法なら、リオルーは知っているはずだ。
いつもの穏やかな表情を消し、まるで獣のように熱く冷えた眼差しで目の前を射貫く。それが会戦の合図か、リオルーは腰を低く落とし目の前の男を顎から切り上げた。
瞬間一斉に襲い掛かる敵、それすらも容易にかわし切っ先で近くにいた男を切り捨てる。
ふと仲間に目をやるとそれぞれ目の前の敵に精一杯の状態だ。ずいぶん放されてしまった。まず合流を果たさなければリオルーといえど長期戦は無謀だ。一番近くにいるベルナルドさえもはるか遠くに感じる。
そろそろ仲間の心配などしていられない状況だ。背後の崖も、目の前に迫り来る山賊も、リオルーのピンチでしかない。数を減らせど時間差で増える山賊の相手も楽ではない。
再び振るわれる刃を避けて返り討ちにするも今度は二人がかりだ。目測見誤って思う以上にしぶといリオルーをどう料理してくれようか目をぎらつかせる山賊の太い太刀が鼻頭をかすめる。
ふいに、浮遊感に襲われた。
「やばっ!」
忘れていたわけではないが、よけるためにはしゃがむか後ろに下がるしかなくて反射的に取った行動は間違いだったらしい。
追ってこない山賊の顔がニヤつき、リオルーは顔面蒼白にして空気を掻き分ける。が、
「お前たち必ず生きていろ! これは命令だ!」
泳ぐ手を掴んだのは予想外の相手だった。ベルナルドの次に近い場所にいたのは覚えている。しかし囲まれるベルナルドにそれを突破するほどの時間はなく、彼にもなかったはずだ。一体何のためにと思うほど全身に傷を負いながらリオルーの腕を取り、頭を抱えるようにする広い男の胸は。
「リオルー!」
2006/09/26公開 2006/11/02修正