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決壊(肆)


……あ…!
動く指に、晴明は意識が飛びそうになる。
やがてその責め苦が終わり、晴明はフと息をつく。
……影連は酔っているに違いなかった。
「まだだ」
そう云いながら影連は、今度は己を導き。
恐る恐るといったふうに自らの指で躯を開いていき。
すべてが初めての夜。
「く」
身を起こした影連は、そのいきり立つ晴明の上に腰を落とし。
「う…っ」
充分に慣らされていない躯が悲鳴をあげる。それでも影連は行為をやめない。
性急に晴明を呑みこみ、自ら腰を振る。
戦慄く膝に無理やり力をこめて、繰り返し。
己が主導でことを進めることへの、微かに残っていた戸惑いはもう消えてしまって。
ひたすらその行為に没頭する。
晴明を知っている躯。故に確かに得られる快感。それでもやはり満ち足りないのは不慣れ
な所為だけではなくて。影連は晴明の襟を掴むと、躯を繋いだまま引き起こす。そしてそ
の首に腕をまわし、さらに激しく動いて。
「あ、あっ」
晴明の肩口にしがみついて声をあげる。
対して晴明は乱れる吐息で影連の耳を掠めるのみで。
――私だけ、か……これほど互いを感じているのに…
影連はおもむろに唇を押し付けて深い口付けを要求する。そして晴明の右手をとり、己の
中心に導く。何も云わずとも絡み付いてくる指は優しく動き始めて。
心得た手つきに喉をすり抜ける甘い声。
「晴明…」
悲痛な声が洩らす。
「……声を…聞か…せ、ろっ」

「もう…もうたくさんだ……あ、」
……
「私をこんな…に……しておいて…」

どうしたのだろう。影連の眼には今にも零れ落ちそうなほどの涙が揺れていて――
その躯を貫きながら晴明は戸惑いに駆られる。
「お前の声が…聴きたいっ」
そう云ったとたん、影連の両眼からぼろぼろと滴が溢れ出る。
喘ぎに交えて、影連は切なさで痛い声を震わせ、哀願する。
「私の…っ……名を呼べ、せ…めい…」
律動に揺れながら願いを繰り返す。
「呼んでく、れ……っあ!」
ともに高みから駆け下りる衝撃に声が途切れる。
くたり、と脱力する影連を晴明はゆっくりと横たえる。影連は顔を両手で覆って嗚咽を洩
らすばかりで、先刻までとは別人のように弱々しかった。
確かに酔っていた。そして酒を飲んだという勢いを借りて曝け出してしまった心。
…影連どの
晴明はその耳元に口を寄せ、影連の名を呼ぶ。気配で呼ばれたのはわかっても、影連は身
じろぎ一つしない。
「声を……っふ……」
顔を覆う手を、晴明は無理やり剥がす。濡れた瞳が見つめる中で、その手は開かれ、平に
晴明の指が滑る。
「…ぁ…」
敏感な肌をなぞられて影連が震える。晴明は指の腹でゆっくりと線を描き始め。
それが己の名を示しているのに気付いて、影連の顔色が変わる。幾度か影連の名を綴った
その指が、今度は少し爪をたてて。
『あいしています』
ぴくりと肩が揺れる。潤む瞳が晴明を咎めるように見据える。
『こえはかならずもどります』
「晴明っ…」
『おまちいただきたい』
「う…」
『なかないで』
宥めるように、晴明は影連に深く口づけながら、最後にもう一度。

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