*相楽智子さまよりvトラマロ  【1】 【2】







空とあなたと





―1―





「ああもう…嘘でしょ」



照りつける太陽の下、マーロンは思わずため息をついた。

だがそれもすれ違うたくさんの人波のざわめきの中で簡単にかき消されてしまう 。



「どーしよ…」



暑さと自分が抱えている問題にふらふらしながら

マーロンは近くにあったカフェテラスに腰をおろした。

「あーあ。ホントにどうしよ…」



再度同じ台詞を呟きがっくりと落ち込むマーロン。

こうなった原因は約30分ほど前にさかのぼるのだがその前に。

そもそもこの日マーロンは両親と一緒に久しぶりに都へ遊びにきていた。

買い物をしたり食事をしたり家族水入らずで楽しくすごし

最後に最近できたらしい大きなテーマパークを少しのぞいてみようという事にな った。

そしていざ行ってみれば開園したばかりなせいもあるのだろうが

どこを見渡しても人・人・人だらけ。

あまりの混雑さにクリリンと18号はやはり帰ろうかと言ったのだがマーロンが

それを引き止めた。

せっかく来たんだから見るだけでも見て帰ろう、と。



『ほら!さっき地図ももらったし、あたし周ってみたいとこがたくさんあるの!

 ね、いいでしょお父さん、お母さん』

『まあお前が見たいって言うんならいいんだが』

『確かにせっかく来たんだしね。にしても本当にすごい人だね。

 マーロン離れるんじゃないよ、迷子になったら大変だ』

『もう、お母さんってば。小さい子どもじゃないんだから』

『まあまあ。さて、それじゃまずどこから行こうかマーロン』



当然一緒に行くものと考えていたクリリンだったがマーロンはあっさりこう言い 放った。

『いいの!あたし1人で行ってくる』



その後しばし親子間で押し問答が続いたが

<あたしだって1人で行きたい時もあるの!>や

<お父さんが一緒だと心配ばっかりして何にもさせてくれないからイヤ!>

などのマーロンの言い分についにクリリンと18号がしぶしぶ了解を出した。



『やったぁ!それじゃお父さん、お母さん。2時間後にまたここでね!

 お母さん達も2人で好きな所行ってていいよ〜』

楽しそうに走っていく娘の後ろ姿を心配そうに見送る夫妻だったが

2時間という短いといえば短い時間ではあったし

いざとなれば探しにいけばいいのだからと

なおも心配そうな表情のクリリンを18号が行くよと促しその場を離れた。

その様子をマーロンは遠目でほんの一瞬はあるがしっかりと確認すると

くるりと前を向きなおしにこりと微笑んだ。

いつも一緒にいてくれる大好きな両親をたまには2人きりで楽しませてあげたい 、という

密かに抱いていた思惑通りに事が運んだことが嬉しかったのだ。

あまり静かな場所でないことや

説得しようとした時の台詞で父親がちょっと落ち込んでいたのは

少し申し訳なくもあったけれどともかく2人きりには違いない。

楽しくすごしてくれますようにと祈りながらマーロンは軽い足取りで歩いていっ た。

が、その30分後が現在の状況なのである。

「本当に迷子になっちゃうなんて。お母さんきっと怒るだろうなぁ…」



もうため息をもらす以外マーロンはすることが見当たらなかった。

地図は今もしっかり手の中にあるし

そもそもその地図通りに目的地に向かって歩いていたはずなのに。



「今いる場所がわかんないんじゃ地図なんて意味ないってば…」

そう言いながらマーロンはテーブルに突っ伏した。

もっとよく探せば現在地も目的地の方角もわかるのかもしれないが

もうそんな気力も尽きかけていた。

上から日差しは嫌と言うほど照り付けてくるし

もはや周囲から聞こえてくる全ての音が耳ざわりだし

なんだか気分まで悪くなってくるような感じがした。

自分はこんなところでいったい何をやっているんだろう。

ふとそんな考えが浮かび、マーロンは泣きたい気分になった。

だが、そんな沈んだ気分が次の瞬間には綺麗に消え去っていた。

まるで何かの魔法の呪文のように、そっとかけられた聞きなれた呼び声によって 。



「マーロン?」



ぱっと顔を上げマーロンは勢いよく声のした方向を振り向いた。



「やっぱり…マーロン。こんなところで何してんだよ」

見上げた先の、天の助けとも言うべきその人が

本当にいつもと変わらない調子で話しかけてきた事が余計にマーロンを安心させ た。

はりつめていた気が一気にゆるんだせいで

さっきまでこらえていた涙が別の意味でこぼれそうになったが

さすがにここで泣いてしまうのは恥ずかしくて

マーロンはにこっと笑顔を作ると嬉しそうに目の前の見知った人の名を呼んだ。



「トランクス兄ちゃん!兄ちゃんこそなんでいるの?

 いきなり現れるんだもん、びっくりしちゃった」

「いや、そりゃオレも…遊びにきてたんだけど

 なんかふっと見たら見覚えある後姿が見えたからさ。

 それより、まさか1人で?」

「え…、ううん。ちゃんとお父さん達と一緒…」

「ああ、だよな。みんなでこっちに遊びに来てたんだ。

 なんだったら帰りまたうちに寄ってけよ。遠慮しなくていいからさ。

 ママも18号さんと話するの楽しみにしてるみたいだし。

 それはいいとして…その18号さんとクリリンさんってどこにいるわけ?」

「えっ…あの…」



だんだん小声で縮こまっていくマーロンを

トランクスは最初不思議そうに見ていたが

少しして何かに気付いたようにはっとした表情をすると

マーロンの耳元に顔をそっと近づけ、小さな声で囁いた。



「もしかして…迷子、とか?」



途端に赤く染まる顔がトランクスの予想が間違っていない事を証明していた。

マーロンが恥ずかしくて顔を上げられずにいると

膝の上でぎゅっと握り締めていた両手にトランクスの右手が重ねられた。



「え…兄ちゃん…?」

「一緒に探しにいってやるよ。大丈夫、すぐ見つかるって。

 クリリンさん達にあんまり心配させないうちに戻らないと、な」

その言葉を聞いてマーロンはなんだかまた泣きたくなった。

側にいてくれる事にほっとして、優しい言葉をくれた事が嬉しくて。

けれどそんな事で泣いてしまってはますます子どもみたいだと自分に言い聞かせ

暗い気持ちを振り払うようにマーロンは笑顔でトランクスを見上げた。



「うん。ありがと、兄ちゃん」

「気にすんなって。困った時はちゃんと頼れよな」

「うんっ。あのね、でも探しに行かなくてもいいの。

 それに今すぐもだめなの、もう少し後じゃないと」

「もう少し後?」

マーロンがこれまでの事情を簡単に説明すると

トランクスはそういうことかと笑った。



「じゃあもうしばらく待てばいいわけだ」

「うん。あと1時間くらい…かな」

「よし、だったらそれまでオレ一緒にいてやるよ」

「えっ、いいよ!あの、入口までの行き方教えてくれれば私1人で…」

「地図持ってて迷子になってんのに

 ちょっと教えたくらいでちゃんとたどりつける自信あるのか?」

「うっ…」



それを言われてしまってはマーロンには返す言葉がなかった。

押し黙ってしまったマーロンにトランクスは半ばあきれるように言った。



「遠慮すんなってさっき言ったばっかだろ?

 ったく、少しは兄貴の言う事素直に聞けっての」



冗談まじりの言葉と共にこつんと頭をこづかれたマーロンは少しばつの悪そうに 笑った。

それからどこか遠慮がちに口を開いた。



「…でも兄ちゃん」

「なんだよ、まだなにかあるのか?」

「だって兄ちゃん遊びにきてたんでしょ?

 だったら誰かと一緒だったんじゃないかと思って…」

「なんだそんなことか。一緒にいてやるって言ってんだから

 そんなこといちいち気にするもんじゃない。わかったか?」

「う、うん…」



それでもなかなか素直に聞き入れられずにいるマーロンに

トランクスはもう一度大丈夫、気にするなと念を押した。

そしてしばらく2人で他愛ない話をしているうちに時間はあっという間にすぎ

気付けばクリリン達との約束の時間まであとわずかと迫っていた。



「お、そろそろ…行った方がいいかな」

「あ、本当だもうこんな時間。…間に合うの?兄ちゃん」



思ったよりタイムリミットが近くなっていた事を気にしてか

やや不安げな声をあげたマーロンをトランクスは軽く笑い飛ばした。



「大丈夫。任せとけって」



そう言ってイスから立ち上がるとトランクスは

まだ少し心配そうな表情のマーロンの手を取ってすたすた歩き始めた。

しかし先ほど話の途中でトランクスが言っていた入口の方向とは明らかに違う方

へ向かっているのを

不思議に思ったマーロンは先を行くトランクスにたずねた。



「ねえ兄ちゃん。どこ行くの?そっちって違うんじゃないの?」

「いいんだよ。とりあえずなるべく人目につかないところに行くんだから」

「なんで?」

「なんでって、この人ゴミの中わざわざ歩いていくことないだろ。

 飛んでった方が絶対早いし楽だって」

「えっ!!ちょっと待ってそんな…」

「あ、平気平気。オレ誰か抱えて飛ぶの慣れてるから。

 昔ブラのお守りの時とかよくやらされてさー」



はしゃいで暴れるもんだから大変だったんだと笑うトランクスをよそに

マーロンの表情はすっかり青くなっていた。

前を向いているトランクスにはもちろんそんな表情は見えないが

どことなく重くなった足取りの方に気付きトランクスは後ろを振り返った。



「マーロン、どうかした?」

「あの…兄ちゃん、やっぱりやめた方がいいんじゃない…?

 ほら、誰かに見られたりしたら大変だし…」

こわいから、とは素直に言えず

遠まわしにささやかな抵抗を試みたがトランクスの答えは案の定だった。



「大丈夫だって。みんなアトラクションに夢中で上なんて見てやしないさ」

「そ、そうじゃなくてっ!や、やっぱりやめようよ兄ちゃん。

 危ないし、それにあたし…」



話をしている間もどんどん先へ足を進めるトランクスに

スカートだしと言おうか、それともここまできたら

素直に言ってしまった方が楽だろうかとマーロンが悩んだ一瞬の間に



「大丈夫。ほら行くぞ!」



と言い、トランクスは両手で素早くマーロンの体を抱き上げ一気に上空へ飛び立 った




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