何故放っていくことができないかって?

・・・それは、後が怖いからさ、多分・・・。





・・・今日に限っていつになっても起きないミーナ。そんな彼女の部屋のドアを俺はもう何回目になるだろうか、結構遠慮してコンコンと叩く。

「ミーナぁ、起きろー!ミーナぁ!」

・・・ドアの外でいくら叫んだって、効果があるはずない。そんなことは俺だって百も承知だ。ただ・・・。

「ミーナぁ!くっそー、ドアの外なんてホンッとに効果ねーよ・・・」

俺は、はぁっとため息をついた。このままではミーナはおろか、いつもどおりに起床した自分まで遅刻してしまうじゃないか。そんなことになってたまるもんか。時間はすでに授業開始まで20分しか残されていなかった。

決行だ。

俺は、ミーナの部屋のドアを思いっきりバァンと開け、叫んだ。

「ミーナぁっ!もう何回も呼ばせるな!起きろ、さもないと遅刻だぞ!」

「ほええぇぇぇっ!?ちぃこくぅ!?」

その1叫びが効いたのか、ミーナは叫びながら急に掛け布団を跳ね除けて、飛び起きた。髪にはいつもどおり寝癖がついている。そんな彼女を見て、俺は思いっきりため息をついて言う。

「・・・俺は起こしたからな。何も文句言うなよ。さっさと支度しろ!」

「・・・っ、ルイ!今何時!?」

ミーナはベッドから滑り降りて、ドアのところに姿勢を崩して立っている俺に聞いた。俺は呆れながら答える。

「・・・8時20分」

「うっそ、やば!ちょっと、着替えるから閉めるよ」

自分の鼻先で、バッターンとドアが閉められた。もしあと2センチ近づいていたら鼻に余計な気力を使っていたところだ。

「ったく、馬鹿か・・・」

彼女は、ドラゴンの赤ちゃんの世話らしきことをしていたに違いない。普段寝坊するはずのないミーナが珍しく寝坊とは、ミーナファンにとっては一大事なはずである。こぞって躾係を希望するだろうが、無理だ。あのチビには苦労した。何故なら、この俺がやりたくもないドラゴンの赤んぼうの躾教室に付き合わされたぐらいだからだ。

・・・そのおかげで、疲れきって定刻より遅く眠ったにもかかわらずいつもよりぐっすり眠れたのは、自分だけの秘密である。俺は普段眠りが浅いんだろうか?ミーナのドアの前でもう5分待った。欠伸が1発出そうになるが、かみ殺す。

くそう、女は準備が長いな。俺なら、3分で終わるものを・・・

「おまたせぇ!」

再びバァンという音とともに、鬼のような形相でバッグを持った彼女は出てきた。全く、寝癖がまだ残っている。だらしない。

「ミーナ、さっさと走るぞ!」

俺は彼女の手首を掴んで、寮の廊下を全速力で走り出した・・・彼女の方に一生懸命しがみ付いている小さなヤツの存在には気付かずに。





「ぁっ、はぁっ、はあ、は、あ・・・」

「はあっ、はあっ、もういやぁ・・・」

「ぁ・・・はあ、お前が寝坊するからいけないんだろ」

「そりゃそうだけど・・・はあ・・・幾らなんでも、今の、は・・・」

ギリギリセーフ。俺達は教室に滑り込んだ。そして、ここまで腐れるのもすごいような気がする一番後ろの隣同士の席にそれぞれ荷物を叩き付けた。

俺のペースがそんなに嫌か?お前のペースなら確実に遅刻だろうが、馬鹿。皮肉をこめて、軽く睨みながらミーナにこう言ってやった。

「今のは、何だ?」

「・・・はぁ、ルイ、はやす、ぎ」

案の定、彼女は俺の思っていたことを言った。そして、思っていたことを言ってやった。さすがに、馬鹿とは付けなかったけど。

「俺のペースがそんなに嫌か?お前のペースなら確実に遅刻だろ」

「・・・ごめん、ね」

・・・とりあえず、昨晩は彼女なりに苦労したんだろう。握った手を見おろせば、薄い小さな傷跡が幾つかついている。物理攻撃系統のほうが得意で回復魔法が下手な彼女にしてみればよくやった方だ。それは俺が断言できる・・・いつもずっと回復魔法の練習につき合わされてきたから。

そんなことを考えながら少々呆れて彼女を見下ろしていたら、不意にミーナは俺を見上げて訴えた。

「ルイ・・・手首、痛い、離して」

「あっ・・・ごめん」

と、俺は妙な違和感を覚えた。ミーナがいつもと違う。なんかこう、左肩がいつもより膨れ上がっているような・・・

「あーっ、お前、左肩の・・・それ!」

思わず叫んでしまった。“それ”は、俺をギロリと睨んで確認すると、一言ギャアと鳴いた。うわ、俺に向かってバーカとか言いやがった、あのチビ!

「ミーナ!何で・・・つーか、いつの間にそいつ連れてきてるんだよ!」

沸々と煮えたぎってくる怒りを抑えて、俺はいまさらヤツの存在に気付いたミーナに言った。彼女は今更、ヤツに向かってこんなとこに来ちゃだめじゃないとか言ってるし。

ちょ、ちょっと待て。待て。何故俺はヤツの発した言葉が理解できたんだ?ヤツとミーナとのほうからあさっての方向を向いて、俺は推理モードに入る。

な、に、か、の、り、ゆ、う、が、あ、る、は、ず、だ・・・

ひょっとして俺は、昔、ドラゴンの言葉を理解できて、そのドラゴンの多数を支配していたドラゴン使いの一族の末裔なのだろうか?俺はもっと深く思考するために自分の席についた。俺の親父は、ごく普通の一般人だ。お袋も、一般人と変わりない。隣でミーナが、ああ、どうしようとか言っている。自分の家系が、ドラゴン使いだったという証拠も至ってない。

な、ぜ、だ?

ドラゴンの血を浴びたからじゃないかと言ったら、それは違う。ミーナは俺より真っ赤だったのに、どうもヤツとは意思疎通できていない。隣で、ミーナが俺を呼んでいる。

ボクっと言う鈍い音と頭部の痛みに、ミーナの機嫌の悪そうな声が聞こえてきた。俺はあまりの痛さに、頭を抱えて突っ立ったままのミーナを見上げた。

「ちょっとルイ!聞いてるの?」

「ってー、何するんだよお前!」

クラス中が注目し始めたらしい。少し余所見をすると、大勢の視線がぶつかってきた。女子の多くは、すぐ顔を真っ赤にして逸らした。と、上から2発目の気配がしたので避けようとしたら、違った。俺の頭部に自身の手を置いてさする少々申し訳なさそうなミーナが、俺を見下ろしている。

「ご、ごめん・・・つか、この子どうしたらいいかな?」

こちらも協力できずに申し訳ないが、こう言った。

「・・・知らねえぞ、俺・・・」

と、彼女の左肩のヤツが、また俺に向かって鳴いた、というか、言った。その口調はものすごーく嫌味タップリだった。

「ふん、照れちゃって羨ましいでちゅね」

俺はとてつもなく、怒った。気がついたときには、叫んでいた。





「・・・っ、このぉ・・・くそチビドラゴンめーっ!」







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