叶わない夢なんだって、思ってた。彼女と自分が並んで歩ける日が来るということ。でも、彼女は自分と違って身分の高い貴族だ。それに彼女はアイツが好きなんだ、自分にそう言い聞かせていたんだけれど。

でもさあ、偶然って結構怖いんだぜ?





正直、ばれたって思った。小さい頃からすぐに感情が顔に出るというか、考えていることがすぐ他人に悟られてしまう。どうやら自分は他人にとって“単純”という人種らしい。そのときの自分の顔のほてりにも気付いたし、当然相手も気付いている。

俺は、拾い集めた教科書を彼女の腕に押し付けてじゃあと一言言ったきり其処から走り去った。





「・・・おい、アステル」

「う・・・えっ?あ、何だ・・・ルイか」

急に呼びかけられ、少しびっくりしながら声の正体を見上げた・・・どうやら自分は呆れられている。奴は、大量の教科書や辞書を抱えてそこに突っ立っていた。

「何やってんだよ、ボーっとして」

「いや、別に」

「・・・アステル、お前・・・約束を覚えてるか?」

彼がここに来たのは、放課後にルイと約束していた図書室での勉強の約束を、多分自分に思い出させるため。それが馬鹿なことに、そんなことは頭からすっぽり抜けていた。思い出してあっと言った瞬間、ため息をついたルイに促された。

「ほら、さっさと行くぞ」





俺、アステル=ウィン。よく周りからいじられる。自分は、見た目は普通だと思っているが、どうやら何かが他と比べて普通じゃないらしい。ドラゴン使いの子孫かもしれないルイとは、親しい仲だ。奴がどんな種族や民族だろうと関係ないさ・・・だって自分が、ドラゴン使いと同じような扱いを受けている、犬人族なんだから。当然俺の耳は、人間型じゃなくて犬だし、ちゃんと犬の尻尾だってある。

でも、自分自身は周りから愛されていると、俺は信じている。本当に嫌いなら、みんな俺のこと相手にしないだろうからな。

そうそう。前、俺はルイに、何故ドラゴンがアカデミーに来たのか、と聞いた。そうすると彼は無表情で、フィズを迎えに来たんだけどミーナを見てからフィズの様子を見て帰った、と言った。

「それにしてもさ、知ってるか?何でも新しい教授が来るんだってさ・・・あの有名研究所のラ・レファンスから」

数分後、俺は廊下を並んで歩いていた左のルイに言った。ルイはすぐ返してくる。

「ああ、そういえば最近その噂で持ちきりだな。一体誰なんだろうな・・・気にならないやつなんて絶対いないだろうな」

顎に手を添えて宙を見上げながら言う相棒に、俺はニヤつきながら、牛皮紙の束と教科書を抱えなおしてさらに言った。

「何でもさ、若い女の人らしいぜー?楽しみじゃん!しかもこのアカデミーで超いい成績だったんだってさ!」

そこでルイも相変わらず宙を見つめながらニヤリと顔面を緩め、さも愉快そうに言った。

「ふふん、案外知ってる人だったりしてな」

・・・その言葉は大あたりだった。





「みなさーん、こーんにーちはー!会えて嬉しいです、アン・シリードでーす!」

究極のハイテンションに、口を開けてポカンとしている生徒たち。彼女の耳は犬、そして犬の尻尾つき。瞳は犬人族の特徴とも言われる薄い黄色、いや金とも言うか。髪も、犬人族の特徴である薄い茶色。そうか、そういえば彼女は本当に超いい成績だったな。そしてたしか・・・コスプレ好きの。

「すでに知っている人もいるよねー、あたしは一昨年ここを卒業したばかりだから。知らないのは・・・16歳以下のみんなー、あたしのことちゃんと覚えてねー!」

何かと引き気味の16歳以下のみんなに向かって、彼女は続けた。

「あたしもまだまだ未熟ですがー、みんなと一緒に、またここで頑張っていきたいので、どうぞ、よろしくおねがいしまーっす!」

開いた口がふさがらないとは、実によく言ったものだ。

ローダ教授から解散を言い渡され、俺は他の同級生と一緒に教室への階段をタラタラ上がっていった。みんな、意外そうな表情でいましがた見た新任特派員について喋っている。

「な、ん、で、く、る、か、なぁ・・・」

バカみたいなことを呟きながら天井を見上げていると、不意に、誰かに頬を指でつんつんつつかれた。一瞬後に甲高い声が聞こえる。

「アステル、なーに考えてんだよっ」

眉をひそめてつついた奴の方向を見ると、そこにはいたずらっ気たっぷりのリアの顔があった。つつけたことがよほど楽しかったのか何やら得意げである。

「な、んだお前はいきなり・・・」

そんな俺にかまわず、彼女は一方的に語り始めた。

「特派員、アン先輩だったな。アステルにとってはなんかよかったんじゃないか、って思ってさ。犬人族の立場も・・・なんつーか回復?いや良くなってきたって言うべきか・・・って思うんだけどさ」

リアはいつも誰かに喋りかけるときにはターゲットの頬をつつき、こういったような男っぽい喋り方をする。とりわけ今日は特に、だ。俺は、キツツキ・リアの意外な意見に少々戸惑いながらも適当な返事をした。

「ああ、まあ・・・そうだよな。アン先輩が研究所にに入ったことだけでも俺ら一族にとってはいいことだったし・・・」

どうでもいいかもしれないが、リアと喋るときは気が楽だ。言ってしまえば女気を感じさせない物言いのせいなのでもあるが。

・・・女気という言葉で、マリアンヌを思い出した。一見気の強そうな顔立ちだが、よく見ると可愛い。成績も学年トップだ。以前のドラゴンのアカデミー破壊騒動でも、暴れるヤツを手なずけたことで、よりいっそう魅力的になったような気がする・・・あくまで俺には、だが。

・・・それに、最近体つきが男子好みになってきた。

「なーに考えてんだよ、アステル!」

いきなり、後頭部をまたつつかれた。現実に引き戻された俺は、リアに文句を言う。

「・・・ってーな、キツツキもいい加減にしろよ」

「だってさ、あたしの今言ったこと聞いてないだろ、お前ー」

少々不機嫌そうに頬を膨らませながら、リアは不平を言った。たしかに、俺は自分の考え事に夢中で、人の話など耳に入らなかったのだが。彼女は更に続ける。

「犬人族は・・・なんて言ったらいいかな?まあ、とにかくいい種族だ。いずれそのうち酷い差別もなくなってくるだろうし、それに・・・」

「えっと、あたしと同じ犬人族のアステル君・・・だっけ?あたしのこと覚えてるかなぁ?」

呼びかけられて、リアも俺も、声の方向を振り向いた。そこには、何故かアン先輩がいた。







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