「・・・ぇー、そんなわけで、実習は全員成功、と。ではー、これからアカデミーのほうに戻るのでー、皆さんついてきて下さいねー」

ルーナ教授が呼びかけたのを合図に、生徒達がわいわいと騒ぎ出した。待ちかねていた自由とも呼べる時間の始まりで、皆それまでの様子と違って生き生きしている。もちろん、私もそうだ。

と、数メートル先からエルが微笑みながら、私の傍によってきた。そして少し苦い顔になって喋りだす。

「今日の実習、どうだった?どう考えてもいつもよりずっと難しかったよね」

ここは、アカデミーから歩いて大分ある森の中。ここで実際に魔法を使って、森の小道で危険な動物達に出くわしたときのための実習。言えば、いざという時のための魔法訓練。

・・・だから、ほぼ解散状態の現在、あちこちに負った傷の手当てをしている生徒が結構いる。回復魔法1発でよくなるものから、やばいぐらい血が噴き出している友人まで様々だ・・・とこんなことを言っている場合ではない。

「うん、なにしろ歩いてるだけでいろんなものが出てくるから。それより、あっちに・・・」

私はエルに手短にそう答えて、やばいぐらいに血が噴き出している友人のもとへ行った。もう一人実習についてきたローダ教授が傍についているぐらいだから、よほどの重傷だと考えていい。どうやら何者かに咬まれたらしく、顔面蒼白、痙攣しかけで気絶寸前。エルがあとからついてくる。

「・・・だ、大丈夫?」

私はその光景に呆然としながらも、そう言って彼の手をとった・・・こっちもやばいくらいに冷たい。目は痛みをこらえるように固く閉じている。

「・・・ぅ、あ」

返事ができてない。後ろのエルも状況を悟った。私は彼を見るのをやめて、顔を上げてローダ教授に言う。いつになく深刻な表情だ。

「・・・先生、本当にやばいですよ・・・?」

「・・・わかっているさ、大丈夫」

経験を山のように積み重ねてきた教授にとっては、こんなことはよくあったに違いない。教授は横たわっている彼の、血が溢れ出る傷口に向けて何事か呟く。次の瞬間、彼の左手首にあった傷口はなくなり、出血もおさまった。

私は彼の右手を握ったまま様子を伺う。エルはしゃがんで見守る。彼の蒼白だった顔がだんだんと血の気を帯びてきた。ローダ教授はまだ彼の左手首を離さない。きっとそこからエネルギーを送り込んでいるに違いない。

・・・よかった、本当に大丈夫だ。私は彼に戻ってきた熱を右手から感じ取って思った。

彼が、和らぐ痛みに安心したのか、その目をあけた。瞬きして、覗き込む私の視線を捉える。その唇が動いた。

「・・・・・・ミーナ?」

彼を案じて、数人がローダ教授と私達の半径5メートル内にいた。彼らは、声が聞こえるとやわらかい表情に変わり、安堵のため息を漏らした。

ローダ教授は彼を起こさせて、背中を一発バァンと叩いてから大きな声で冗談交じりに言った。

「よっしゃ、こいつはもう大丈夫だ!さあ、どんなにこき使ってもいいぞ」

「・・・ったー・・・よしてくださいよ、先生」

「ルイ、これからはサイドから何か奇怪なヤツがまた出てきたら、即攻撃するんだぞ。さもないとまた今回みたいになって死ぬかも知れんからな」

「・・・死にゃーしませんよ、もう」

思わず、私はいつもどおりになったルイに言う。右手は握ったままだ。

「でも死ぬかと思ったんだよ、本当に」

「・・・俺を殺すのはやめてくれ」

思ったとおり彼からはツッコミが返ってきて、さらに周囲を安堵させた。数人が忍び笑いをもらした。





腐れ縁のルイに、相談相手で親友なエル、ローダ教授、その他数人。アカデミーへの道は緑がおいしく、というより寧ろ暗く茂っていた。

小さなおしゃべりを交わしながら進んでいくと、突然ルイが立ち止まって言った。

「・・・なあ、誰か喧嘩してないか?」

私も、他の皆も、立ち止まってルイを見た。それから、あたりを見回す。暗くてよく見えない森の奥、後ろの道、わずかに見える空。と、教授が進行方向に向かって左の森の奥に反応した。

「・・・あっちだ」







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