一生愛してるから…
ずっと…
君だけを
薫
「母さん、こんな処に居た。」
桜の木の下で座り込んで桜を見つめる母
「剣路…ごめん、ちょっと見たくなって」
「ったく…母さんは……」
ここは
あの人が亡くなった場所
あの人が逝って何度目の春だろうか
母さんはよくここへ来る
「ふぅ…帰ろうか剣路」
そう言って立ち上がろうとする母
だがよろけて転ぶ寸前で俺は受け止めた
「ごめん!剣路っ」
「いいよ。」
母は
母の体は病に侵されている
あの人と同じ病
確実に死に近づいている
「ほら!ボケっとしてないで帰るわよ!」
「あぁ」
それなのに誰よりも明るく振舞って…
誰よりも…
あの人が亡くなってから一度も母の泣く姿を見たことがない
いつも笑顔で
微笑んでいる
でも、その笑顔の裏ではきっと泣いているのだろう
あの人を想って
なんであの人は…
母を悲しませるのか
幼い頃から
いつもいつも
憎くて
俺は母に笑って欲しくて
でも、俺に見せるその笑顔は
あの人に見せるものとは全く違う
母の綺麗な笑顔はあの人の為だけのものなのだ――
母はそのまま高熱を出し床に伏せていた
「ほら!熱なんか出して!!」
剣路は呆れ顔で薫の看病をする
「ふんだ、いいじゃない!剣路が看病してくれるんでしょ?」
幾つになっても可愛らしい…
綺麗な母
「調子乗んなよ!」
「まっ冷たい!誰に似たのかしら!」
「間違いなく貴方だよ」
失礼しちゃうわねぇ〜と笑う母
つられて笑ってしまう
ガラっと障子が開いた
「おい、薫また熱出したって?」
弥彦が見舞いにやって来たのだ
「あら弥彦。」
「弥彦さん。」
「まったくお前も大変だなぁ剣路」
「はい。」
二人してため息を吐く
「何よ〜〜二人して!!コホっコホっ」
「もう寝てな薫!!」
「そうね…そうさせてもらうわ」
苦しそうな顔
それでも笑顔で
「弥彦さん…」
「ん?」
「母さんはどうして父さんと…」
二人縁側に腰を下ろして座っていた
「…あの二人は…固い絆で結ばれているんだよ。誰にも解くことはできない…」
「でも!」
「薫が笑うのは剣心の為だ…あいつは剣心の為だけに笑っていたんだ、どんな時も」
「……。」
「母さんはそれで幸せだったんですか??本当に幸せだと!!」
剣路がすごい剣幕で弥彦に尋ねる
弥彦は剣路の顔を見つめたまま
「それでも幸せだったと思うよ。あの二人は…確実に。 俺は一番近くであいつらを見てきたんだからな」
その表情は優しく穏やかで
「……。」
剣路は無言のまま俯く
「まぁ、お前にはまだあの二人を理解するには早いさ…時間が経てばわかるようになる」
弥彦はポンと剣路の頭を軽く叩いた
それはまるで本当の兄のようで……
時間が経てばわかるようになる――――
薫は目を覚ました
「あっ…わたし寝てたんだ。」
開かれた障子から春の風が入ってくる
「…剣心。」
もうこの世の何処にもいない
誰よりも愛しい人の名を紡ぐ薫
「っ…剣心…。」
もう一度名前を呼んで欲しい
『薫殿』って
いつもの優しい笑顔で
抱きしめて欲しい
温かくてすべてを包み込んでくれる腕で
「っ…ふっ…」
涙が溢れてくる
もう泣かないって誓ったのに
でも止めることはできなくて
貴方がいない日々
それに慣れていく自分
辛くて…苦しくて…
思い出になんかしたくない
だって貴方は確かに今でも胸の中に生きてる
「母さん?入るよ?」
薫は慌てて布団を顔まで被せた
「具合どう?」
「ん…大丈夫よ」
「そっか…」
「えぇ…」
「…ねぇ。」
「え?」
「母さんはあの人の何処が好きだったの?」
「!」
薫は驚いて布団を剥ぎ取った
剣路の顔を見やる
だがその顔は真剣で
「…何処って…全部に決まってるじゃない」
「全部」
「うん。剣心の全部が好きよ…強いけど弱い人、自分は幸せになっちゃいけないとわたしを遠ざけて。」
薫は何かを愛しむような顔でそう応える
「馬鹿な人…本当は誰よりも幸せを欲しがっているくせに…自分の犯した罪を償うために…」
「母さん」
「だから、そんなあの人が愛しくてわたしは支えてあげたいと…生涯を賭けて…」
薫は変わらず穏やかな顔で
「あの人は罪深き人…だからどんな終わり方をしてもそれは受け止めなくてはならないのよ。」
「人斬りの罪…」
「えぇ…でもわたしは幸せよ。変わらずに…だって貴方という宝物をくれたんだもの」
そう微笑む母は誰よりも綺麗で
あの人の事を語る母は何よりも綺麗だった
母さんは嘘を言わないから
きっと本当に幸せだったのだろう……
父を『緋村 剣心』を深く愛しているのだろう
今でも
父さんもさぞや悔いてるだろう
こんなにも想ってくれる人を残して逝ってしまって
父さん――――
それから数日が経ち
薫の病状が悪化した
苦しそうで
見ていられなかった
そんな日が何日か続いて……
落ち着きを取り戻した薫
だが顔色は悪く、物もあまり食べない
「母さん、少しでも食べて」
剣路は薫にお粥食べさせようとする
「うん…でもあまり食べたくないわ…ごめん」
「…」
仕方なくお粥を片付けようと立ち上がった
「桜…もうすぐ散っちゃうわね…」
薫が呟く
「あぁ…もう春も終わりだよ」
そう告げて部屋を出た
「……もう終わりね…」
それから何刻かして
部屋へ戻った時
母の姿がなかった
「か…かあさん?」
剣路は慌てて家中を探し回った
何処にも見当たらない
あんな体で何処へ
ふと剣路はあの桜が咲いている土手が頭に浮かんだ
母がよく行ってた
父さんが亡くなった場所
「…剣心」
薫は桜の木の下に座って
瞳を閉じる
(…おる…)
(え?)
(薫殿…)
(け…んしん)
其処には薫の愛しい人の姿があった
昔と変わらない姿で
緋くて長い髪
腰には逆刃刀を携えて
でも
ひとつ昔と違うのは
左頬の十字傷
それはまったく消えていた
(薫殿。)
自分の都合の良い幻かもしれない
でもそれでも良い
また会えたのだから……
(剣心!会いたかったよぉ)
薫はギュっと剣心に抱きつく
ずっと望んでいた貴方の温もり
(薫殿…すまない・・・悲しい思いばかりさせて)
(ううん、そんなことない…)
薫は泣きながら剣心の胸に顔を埋める
(薫…)
剣心もきつく抱きしめる
(もう…離れたくないよ…離さないで)
(……もう離さないでござるよ…ずっと…)
(本当に?)
(あぁ)
(っ…嬉しい)
(ずっと一緒だ。)
(うん。)
これ程にない笑顔を向けて微笑んだ
ずっと…
一緒よ
剣心
「母さん!…」
桜の木の下の母を見つけて走りよる剣路
「母さん」
すでに母は息を引き取っていた
その顔は
とても幸せそうだった
「っ…」
ふと目を下に落とすと薫の手には藍色のリボン
それは母が昔していた
お気に入りのリボンだった
そういえば母さんはよく自慢気に
『このリボンはね、父さんが母さんを守ってくれた大切なリボンなのよ!』
そのリボンにはもうほとんど見えないが父の血痕がついている
嬉しそうに…
少女のように……
なんで忘れていたんだろうか…
母さんは幸せだったじゃないか
自分で勝手に母を哀れんで…
馬鹿じゃないか…
父さんはちゃんと母さんを幸せにしていた
『神谷 薫』は幸せだったんだ
父さん、貴方と出会えて…―――
剣路は薫の体を抱き寄せ声を殺して泣いた
「きっと父さんの所へ行ったんだね…母さん、今度こそ父さんと幸せに…」
「剣路君・・・いいの?これお母様の大事な形見なんでしょ?」
「いや…いいんだ、それは千鶴に貰って欲しい」
「…ありがとう。大事にするね」
「ああ」
そして俺は逆刃刀を手に
父さんの信念を貫くから…
強くなる
貴方のように大切な人を守れるように
二人で見ていてくれ
そう青い空に向かって囁く
『薫殿は…やはり藍色のリボンが一番似合うでござる』
『そうかなぁ///でも嬉しいわ剣心』
『あぁ…とても綺麗だ』
『…有難う』
楽しそうな二人の姿が見える…
fin
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